浅葱綸子地文字文様奉納裂です。もとは小袖だったものが仕立て直され、寺院に寄進されて伝わったものです。裏には「文化七庚午年」の墨書の年記銘がみられます。作品が寄進された年代が特定できる、資料性のある染織品です。浅葱地から白く染め抜かれた「風」の文字が目を引きます。この裂は、白く染め抜いた文字のすべてに花押があり、このような例は私は初めて出逢いましたので興味深いです。文字に絞りに見えている部分は型鹿の子です。
このごろ「風の時代」という言葉を見聞きするのですが、こちらの「風」の一文字のみを、小さな軸装にされるととても面白いと思います。取り合わせる表具裂によって様々に印象が変わりますので、ユニークな軸ものになるのではと想像しています。「風」の文字は、季節以外に物事の節目の折など、いろいろなシーンに寄り添うのではないでしょうか。三幅縫い合わせてあるうちの一幅の横寸法は約30,5cmです。「風」の文字の大きさのご参考になさって下さい。
こちらの奉納裂は、なかなか写真に再現できておりませんが、浅葱綸子地に全体的に経年の汚れがございます。また、奉納裂の証しであるお線香の焼疵がございます。時代を経た古い裂の状態にご理解いただける方におすすめさせていただきます。ちなみに浅葱地には全体的に経年の汚れがみられますが、この様子で小さな軸装に仕立てられますこと、当店の感じでは問題ないものと判断しております。経年の古めかしい味わいは、意図的につくりだせないものですので、こちらの「風」の文字は、そのぶん表具裂選びが愉しそうなのです。仄暗い空間に掛けることを想定し、古びた味わいの江戸時代の「風」の雰囲気に引き立つ表具裂を探されるのも愉しい時間です。裏の木綿は文化七年以前に手織りされた、風合いのよい手紡ぎ糸の木綿です。
環境によって色目が異なってしまいますが、こちらの写真が実物に近い色目で撮れております。
恐れ入りますが、こちらの色目をイメージしていただき、写真全体を御覧いただけましたらと思います。