浅葱色の麻を洗う
経緯手績み糸 江戸後期 19世紀

 

年の初めに浅葱色の麻を洗いました。
写真の江戸期の経緯手績み糸のこの麻(おそらく大麻)は、この日に見た空の色よりも数段浅い染め色です。水に浸けると色が濃く目に映る、その色を撮りたく思いました。色のきれいさを皆様にもご覧いただけたらと思いましたがなかなか撮れず、実際の浅い色目から離れているかもしれません。

 

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鏡開きも終わり、暦は大寒へと続きます。
新春をことほぐムードから次第に移行し、辺りの空気がしいんとしてくる今頃から節分の二月が終わるその頃までが、私は一年で一番好きな季節です。春に向かう、兆しの季節のひそやかで静かなこと、この時季だけに漂う、何か自然界に気配といったものが在るように思えるのです。
夜半に町内会の火の用心の声と拍子木の音が聞こえてくる時は、拍子木の音の長さを暫く耳で追っていたりして、暖房の音と時計の音しか聞こえてこない室内の静けさにもふと気が付いたりして、この時季の夜の深さというのか、春が訪れる前の闇の深さというのか、どの季節よりも夜の闇がいっそう深く感じられるような澄んだ大気の冷たさに、春がまだ折り畳まれていることを好ましく思って、そろそろ節分の豆と柊の枝を気にしておこうなどと思うのです。

 

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年の初めに浅葱の麻を水に潜らせながら、この一年はどの様な年になるだろうと思いを巡らせました。そして自分らしさとはどういうことだろうとも考えました。自分らしい時間の過ごし方、自分らしいもの選び、心の琴線に触れるもの、こと、そして裂。季節は巡ります。この一年という時間の中を古い裂、古色の色彩と共に、てくてくと時の道のりを歩いてゆければと思います。また一年、皆様どうぞお付き合いいただけましたら幸いです。1月14日㈫から通常営業いたします。

 

2025.1.12

古裂古美術 蓮
田部浩子