植物染料での染色の場合、同じ植物であっても採取した時季やその年の気候、植物が生育していた環境やその経年によっても現れてくれる色は異なるし変わるため、厳密に同一な色の再現はできないという。
関わるすべての事象が生に影響し、それにより植物が有する成分は一定していないことから、染料となる成分も同様で一定していないからだ。
様々な条件に在り、人知れず生の過程を繰り返しているすべての植物には、その植物だけが内包する生と色彩がある。植物からの染料は使用する媒染剤によって色相が変わる。

 

その時々の「色」があるということに、自然の力や神秘なものを感じたとき、いっそう「色とは何だろう」という思いがふくらんだ。
江戸時代、桃山時代、室町時代、鎌倉時代、平安時代、奈良時代…もっと向こうに在った、遠い時のことを思ってみる。
染め織りに関わる多くの人びとが尽くした、気の遠くなるような丹精により引き出された色彩は、今も呼吸して現代にその色と貴さを見せてくれている。
伝わる各時代の染織品に見られる染め色は、それぞれの時代に生きた草木たちからのもの。
染め色に、自然と穏やかなものを感じるのは、自覚のないままに草木からの恩恵を、あえかな気配を、動物としてのひとは、感じ取っているからではないだろうか。

古裂古美術 蓮
田部浩子