明恵上人と白の色彩に、何か特別な関りが認められるのではないかと、その関係を辿った論文*があり、色彩が人に与える、または及ぼす心的な事柄に想うところもあり、内容を興味深く読んだことがあります。
論文によると、明恵上人の自ら著した「夢記」と、上人の高弟の喜海が記録しておいた「明恵上人行状」から上人がみた夢を追うと、夢の中での色彩感覚として、不思議と白に対する記事が多いといいます。「白」に関わりのある夢を述べられているそれらには、白雉、白鷺、白粥に白芥子、白練の鉄槌といった夢中での「白色」の色彩の頻出、また、上人の修行の地にも白の地名の入る場所が選ばれていること(湯浅栖原村白上の峰、白崎)など、白に対する関りが偶然として流すには因縁が深いように思われるとされ、明恵上人の生涯を通じての重大な転機には、白の色彩の何ものかが夢に現れているということを述べられていて印象に残るものでした。

 

白色は神秘を表す色彩でもあるので、明恵上人の深層にそのことが在り夢に白色の色彩を持つものが立ち現れたのかもしれないが、「色」という、そのもの自体に姿かたちを持たないもの、けれどいずれにも存在している不思議さのあるもの、消えゆく色彩。色の存在についてあれこれと思い巡らすうちに、いつのまにか「色をみつける」ような気持をもって自分は古裂を探し続けているような気がしています。

 

この白麻の手袋は、江戸時代の鎧櫃の中から出てきました。はじめからあまり汚れはなかったのですが、時間をかけて水に浸し、丁寧に手入れしてみたところ、傷まずに白さがはっきりとして、麻(おそらく経糸緯糸大麻)の美しさが際立ってくれたように思えます。手入れのために長い時間白色を見ていたとき、明恵上人と白のことを思い出していたので記しました。鎧櫃に仕舞われて、時代の中で忘れ去られていたこちらにも、白色の持つ清浄な気配が感じられる気がしております。

 

裂のほとりⅦ 前期「単色の美」 出品予定

 

2021.9.23

古裂古美術 蓮
田部浩子

参考文献

石田尚豊「明恵上人と白」『日本仏教』第24号 昭和41年7月10日発行 P.12