雨降り朝顔

 

幼い頃、この花を採ると雨が降ると祖母が言った、雨降り朝顔。
私は自分がずいぶんと小さな時のことをよく覚えていて、そのひとつに雨降り朝顔のことがある。一人で遊ぶのが好きだったこと、その頃周囲には野原も雑木林も沼もあって、植物とよく遊んだ。

 

まだ幼稚園に通っていなかったのではと思える頃、いつものように外に遊びに出た。蒸し暑い梅雨時だったはずで、舗装されている道が少なかった当時は、雨が降ると、道のあちらこちらに大きな水たまりができる。その水たまりの中を順々に歩きながら野原に行くことが面白かった。水鏡のように空の雲が水たまりに映っているのをのぞき込み、そこに足を入れて雲を踏んでみる。そのうちに小さな長靴の中に水がたくさん入ってきて、何度も長靴を逆さにした。

 

道からはずれた盛り上がったところに、雨降り朝顔が蔓を伸ばして桃色の花を咲かせていた。祖母の、雨が降るから採ってはいけないと言ったことがすぐに気持ちに浮かんだけれど、じっと花を見ては、そんなはずはないと子供心に思って、ぷつんと手折り、ぷつん、ぷつん、といくつかお土産にしようとしたその時、折しも本当に、ぽつん、ぽつんと雨が降ってきてしまった。

 

小さな私はびっくりしてこわくなり、その場で大泣きした。いけないことをしてしまったと、手に持った雨降り朝顔をすぐに打ち捨て、泣きながら走って家に帰った。湿った小さな長靴の感触、曲がり角を曲がり、見えてきた家の屋根の色に安堵して、もっと泣いた。雨降り朝顔を採ったから雨が降ってしまったと、いつもきものを着ていた祖母にまとわりついて泣いた記憶がある。植物をこわいと思った気もする。
この植物が雨となぜ関りがあるのか、民俗・風俗の本を追っていつか調べてみると面白いと思っている。

 

幼い頃の記憶は心の奥底に横たわっていて、時々今に顔をのぞかせる。
雨降り朝顔が咲いているのを見ると、遠い時間に在った景色とその花の名前に祖母のことを憶う。

 

2023.5.23

古裂古美術 蓮
田部浩子