山種美術館 開館55周年特別展
上村松園・松篁 ー美人画と花鳥画の世界ー

 

 

東京・広尾の山種美術館にて開催中の特別展「上村松園・松篁 -美人画と花鳥画の世界-」に先月二月中頃に行ってまいりました。まだ寒さの続く時季に上村松園を観たく思い、北風のつよい晴天の日に出かけました。久しぶりに写真ではない数々の美人画の作品を目にすることができ、「真・善・美の極地に達した本格的な美人画を描きたい」と言葉にされた松園その人を想いました。展示にある代表作「牡丹雪」(1944年 山種美術館蔵)の画にみる余白が見事で、舞い降りる雪のひとつひとつを目で追いながらその世界を楽しみました。

 

松園の作品には惹かれるものが多くあります。幾つかある中で「晩秋」(1943年 大阪市立美術館蔵)の作品には二十代の若い頃、身震いするほどとてもつよく憧れました。当時障子のある部屋に住んでいたのですが、粗忽にも障子に穴をあけてしまうと、「晩秋」のあの女性に憧れて、雪輪の形に切った和紙か障子紙で、同じようにふさいでみたりいたしました。画のように素敵に出来ないことはわかっていても、雪輪を切り紙しておいて、小さな箱に作りおいていたりしたものです。
十三年前まで住んでいた木造の古い家も障子があったので、やっぱり雪輪でふさいでみては、そこだけ真白く映る、貼られた雪輪にひとりうなずくような想いでした。二十代の頃の、あのつよく憧れた想いは内から離れてゆかず、障子というと、きっと私はずっと雪輪をするのだろうと思います。なかなか上手くならない雪輪の形のままで。

 

上村松園その人の内面の深さ、厳しさ、芸術に向かう精神には、こちらの背筋が伸びるような想いがし、作品についても、お人についても、そうそう記せない想いが私にはあります。語る言葉をとても持ち合わせておりません。今展では会場で唯一撮影可能でした作品「娘」(1942年 山種美術館蔵)ですが、ホームページ、インスタグラムにアップできたらと思い、撮り帰ってはみたのですが、松園の、自身の作品の制作における念願やその境地を想ったとき、なにか、撮影可能、SNS等インターネット掲載可能だからということでその作品を撮り帰り、自分の好みなように掲載することすら、何というのか、なにか憚られるような想いがしてまいり、たった一枚の作品写真なのですが、結局掲載することはやめにいたしました。何でしょう。上村松園の作品と、松園の精神の高さを大切に思いたくなり、うまく言葉にできませんが、時流に乗れない自分がいました。

 

美術館では帰りにCafe椿にてひと休み。上村松園の作品「春芳」をモチーフにして作られた和菓子「誰が袖」とお茶を頂いて、夕方前の、まだ北風のつよい外を、道路を走りゆく車を美術館のガラス越しに眺めながら、もう二月も半ばになると思ったのでした。今はもう四月も近く、東京では桜が開花し始めています。
一年が巡り、季節が巡ります。
どうか平和でありますように。美しいものに祈る日々が続きます。

 

2022.3.26

古裂古美術 蓮
田部浩子