とうとう今日は大晦日です。あと数時間で年が明け、新たな一年がやってまいります。
私のところでは夜も更けてくると、どこかで撞いている除夜の鐘の音が、遠くからかすかに聞こえてきます。鐘の音は、風向きで聞こえる年と、聞こえない年があるのですが、今宵はどうでしょう。耳を澄ませてかすかに聞こえてくる除夜の鐘の音は、テレビから聞こえてくるものとは異なり、何か古い時代の、中世の時間のことがふと思われてくるのです。中世の音の世界を想ってみる。そんなことが、ほんのひととき、心によぎります。
夜もほんとうに更けてくると、通りの自動車の音もしなくなります。機械音のしなかった中世であれば、今とは比べものにならないほどの真の静けさの中、除夜の夜に寺院が鳴らす鐘の音を、遠くからかすかに聞こえる音を、耳を澄ませて聞いていた人が数多くいたことでしょう。中世の人びとは「音」ひとつとってもそこに神意を感じたようなので、闇を渡り耳に届く鐘の音を、様々な思い方で受け取ったことと思います。遠くからかすかに聞こえる除夜の鐘は、そんな中世の大晦日を想わせてくれるのです。その中世の大晦日に想いを馳せて、今晩耳を澄ませてみようと思います。風向きが良ければかそけき除夜の鐘の音が聞こえるはずです。この年に在った様々な時間を想い、来る年の平穏無事を願います。
暮れの大晦日になると取り出して棚に置く、ルリスタンの青銅の小さな鐘も箱から出しました。これは自分にとっての除夜の鐘で、長いこと、いつも暮れにだけお目見えします。忙しくなりがちな今日の日ですが、夜も更けてきた頃には東山魁夷氏の画集をめくりながら年越しをしようと思っています。作品「たにま」や「晩鐘」に会いたくなりました。
* * * * * * * * * *
今年は秋から続けて展示会「裂のほとりⅦ」、「裂のほとりⅧ」を開催させていただきました。
銀座・月光荘画室2にての前期「単色の美」、後期「文様の美」では、コロナ禍の折、御来場いただきました皆様にはいろいろとご協力を賜りまして心から感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。また、御来場をお考え下さり、今回は御来場になれなかったお客様にもたくさんのお心遣いを頂きましたこと、心より御礼を申し上げます。励ましのお電話とお便りを多く頂きましたこと、大変感激いたしました。古い裂を続けてゆくことの気持ちにどれほどお力を頂いたかわかりません。また、眠る時間が少ない私を皆さんがご存じなこともちょっと笑ってしまいました。ご心配いただきありがとうございます。することが多く、でも急いで眠るようにいたします。来年も元気に古く素敵な裂をみつけてまいりたいと思います。
銀座での前期「単色の美」につきましては、ずいぶんと長い間心に温めてきた企画展でした。今年にその「単色の美」を開催することは、個人的にとても意味を持っていたことでもあり、形にできましたこと、皆様に御覧いただけまして、心より感謝を申し上げます。「単色の美」に関しましては、終わることなく古裂古美術 蓮の中にいつも在る、動かせないものになっております。いつかまた、何か別な形でも取り組んでゆければと思っております。
そして十一月に開催させていただきました「裂のほとりⅧ -金沢にて-」。
お忙しい中に御来場下さいました皆様、本当にありがとうございました。また、御来場かなわず、お電話とお手紙を下さいましたこと、心より御礼と感謝を申し上げます。金沢の地で古裂の展示会「裂のほとり」をおこなわせていただきましたこと、素晴らしい経験をさせていただきました。幸いなことにお天気に恵まれ、皆様に雨のご不便をお掛けしなかったこと、とても胸をなでおろしました。御覧頂きましたような当店の古裂選びでございますが、どうぞいつかまた機会がございました時には、ぜひまたお運びいただけましたら嬉しく思います。
そろそろ日も暮れてまいりました。
コロナ禍の大変な一年でしたが、皆様に支えていただき無事に過ごすことができました。
今年も本当にありがとうございました。
来年も何卒よろしくお願い申し上げます。
皆様よいお年をお迎えください。
2021.12.31
古裂古美術 蓮
田部浩子