古裂各種 縞・格子・更紗 19世紀

 

移転のお知らせをトップページに掲載いたしました。御覧いただけましたら幸いです。 移転先が先月後半に決まりましたため、お知らせが遅くなり大変申し訳ございません。これから夏にかけまして引越し作業に入ることから、現在の店舗は6月14日をもって閉店させていただくことになりました。皆様にはこの場所での10年を御支援いただき、心から感謝申し上げます。ありがとうございました。

 

私はこの古いビルのささやかな空間がとても好きでした。銀座の一角にひっそりとこんな空間が残っていてくれて、というような、隠れ部屋のような場所で、籠っている感じがとても落ち着くのでした。籠っている感じとはいえ、角部屋で大きな窓が3つあり、暗さが感じられません。辺りはたくさんのバーがひしめき合っており、でもネオンの明かりは静止していて静かなので、店内の窓の磨りガラスに映る夜のネオンは昭和の雰囲気で、自分は気になりませんでした。そのぼんやりと映る光が淋しいような、そうでないような、しとしと降る雨の日などは、なかなか静かな心地になりました。

 

ここに住むことを考えたこともあります。銀座にはまだお風呂屋さんがあります。小さなたんすはここに置いて、などと想像したり、ものを書くにはとてもよい一室になると思いました。古いビルは2階の高さが低いところも良く、人の行き来する足音がリズミカルに聞こえてきたり、雨の音も聞こえてきます。コロナ前でしたが、この界隈は秋に何度かちんどん屋さんが来てくれたこともあります。店で江戸期の裂の解きものをしていると、向こうの方からちんどん屋さんのあの音がしてきまして、窓を開けて下を覗き込み、この路地を通ってくれないかと思ったものです。路地の多いこの界隈では、ビルに反響して音が跳ね返って聞こえてくることがあります。辺りが不思議な雰囲気になるそんなときは、平安末期の『梁塵秘抄』の時代と世界を想ったりし、傀儡の集団とは一体どのようなものであったかを、再び調べてみたくなったりするのでした。

 

泰明小学校のすぐ近くで、校庭の児童たちの声が聞こえ、学校のチャイムも聞こえます。現在の店舗ビルの女性のオーナーさんがとても素敵な方でいらっしゃり、ビルの階段でお目にかかれる時など、嬉しい気持ちでお喋りをさせていただきました。お蔭様で安心して10年の歳月をこの空間で過ごさせていただくことができました。時間という、目の前に来た舟に乗るようにして、たくさんの想いも一緒に荷造りして、次の場所へと移ります。移転先はお隣のビルですが、過ごしてきたひとつの長い時間を後にする想いです。

 

現在の店舗の開店日をラストの日まで掲載させていただきました。急な仕入れ等で開店日に変更が生じることもあるかもしれませんが、その際は分かり次第お知らせいたします。 引き続き、どうぞお付き合いいただけましたら幸いです。

 

2023.5.18

古裂古美術 蓮
田部浩子