古の人びとは草木の生命力や薬草としての優れた効能に大いなるものをみて、その神秘性から草木に様々な祈りを籠めて救いを得、重きを置いてきた。
霊験あらたかな樹木の葉を懐中して旅の安全を祈願したり、生死をかけた戦いの場では、霊威のつよいとされる植物の葉をかざしにしたりしるしにして、宿る神霊の力を信仰した。

 

ほっとするところでは、お祝いのお赤飯に南天の葉が添えられているのは、南天の葉には食べものが腐敗しにくい成分があるらしく、夏の暑い時など南天の葉の下のものはくさらない、という、古くからの伝承と呪い(まじない)めいたものが、現在も活かされているからだそう。
古からの崇めとしても、美しい染色のための染料としても、お祝いのお赤飯をまもるお役目としても、やはり草木、植物には、人間がとうとばねばならないたくさんの不思議と力を秘めて、じっと根を下ろしている。
深く澄んだ染め色を目にしているときの心の鎮まりは、緑の中を歩いているときや、花に心を向けているときと同じ波長の中にいるような、なにかとても近い作用を心に導く、そんな気がしている。

古裂古美術 蓮
田部浩子