浅葱地赤格子縞裂 宮古島と思われる
苧麻・木綿 沖縄 19世紀

-沖縄が湛える-

 

沖縄の古い染織品には沖縄だけが湛えている律動があるように思う。
それは絣や縞・格子の連続した調子から受けるリズムではなく、そのもっと後ろに在る沖縄の聲のような音楽的なもの、うまく表せないのだけれど、そう、歌のような音の表しを沖縄の古い裂から感じたりする。音を感じるといったらおかしいだろうか。澄んだ感覚と品格が隅々にまで敷きつめられていて、美しさのちからがつよい。存在感がどうしてもほかとは異なる。一本の経糸と一本の緯糸とが交差するこの世界から一体何がそのことを立ちのぼらせているのかと思う。
初めて古い久米島のたゆたう絣の裂を目にしたとき、心をつよく打たれて気持ちをもっていかれてしまった。以来自分にとり沖縄の古裂は想いびとのような大切さ。いつの日か小さな沖縄の古裂展ができたらと願っている。点数の多さや立派さがなくたっていい、ささやかでもほんとうに自分がしたかったことを身の丈でしたらいいんだと、二十数年の歳月を話し相手に空を仰ぐことがある。

 

浅葱地赤格子縞断片裂 
宮古島と思われる
沖縄 19世紀
苧麻・木綿 34,0cm×35,5cm 
1cm間の糸込み 経27本前後 緯25本前後

 

小冊子『裂のほとり』P.16より 2017年11月15日発行

 

 

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今年は沖縄復帰50年記念ということで、東博(6月26日終了)や東京・駒場の日本民藝館(8月21日迄)など、沖縄の素晴らしい工芸作品の特別展が各地で展開されております。いつまでも、先々の世代へと、沖縄の美しい工芸の世界が伝えられてゆくことを切に願っております。

 

5年前の秋、古い染織品への想いを籠めて、そして、自分が続けてきたことの年月を記念して、ささやかな、初めての小冊子を編みました。その中に、自分にとっての沖縄の古い染織品に寄せた「沖縄が湛える」という小文があります。
最初の小冊子発刊から5年ほど経ちましたが、小文にした自分の想いは何も変わっておらず、これからも変わらないことでしょう。
2017年発刊の小冊子『裂のほとり』より、ホームページに掲載させていただきます。御笑覧いただけましたら幸いです。

2022.8.1

古裂古美術 蓮
田部浩子