里山の無人駅に一本だけ佇む大銀杏。
展示会を無事に終えることができました先週、紅葉に間に合えばと、ようやく会いに行きました。
小湊鉄道の沿線を走る、走る。揺れる、揺れる。
ディーゼルカーの大きな音。流れる里山の景色を只々ずっと見ている。自分自身に風が吹き抜けていく感じ。
日暮れ前の午後、紅葉を残す大銀杏に到着。「来ましたので。」と小声で呟く。改札口のない駅には、足の踏み場もないほど銀杏の実が落ちています。次の列車は1時間先。
鳥の聲が聞こえる。遠くのどこかで猫が鳴いていた。上空を飛ぶ飛行機の音も聞こえた。音がよく聞こえる。 道との境に子供の頃によく遊んだ黄色い花の「
勲章」が茂っていた。セーターに勲章を付けて遊ぶ。銀杏の葉も拾う。ひとしきり草々と遊ぶ。遠くの畑にちらほらとカメラマンさんがいる。小湊鉄道の列車のシャッターチャンスを待っている。もう陽が翳ってきた。
二匹の大きな蜘蛛が駅舎の天井にそれぞれ巣を作っていました。長い手足を動かしながら、糸の上を行きつ戻りつタンゴかワルツ。蜘蛛の巣を作るところを暫く下から眺める。これは織りではなく編みだな、などと。糸の上をするすると行ったり来たりしている蜘蛛に、「何時ごろまで巣を張るん?」と問うてみる。「ええからはよお戻りや」と言われたような、言われなかったような。
里見駅で撮ったタラコさん。この赤の色のなつかしさ。この列車をタラコさんと呼ぶそうですよ。大正時代の貨物車両の素敵なこと。駅員さんが大正時代と教えて下さった。
帰りに千葉駅であさりの佃煮とうぐいす豆を計り売りにて買う。満足の静かな一日。
小湊鉄道、またね。
おわり。
2023.11.25
古裂古美術 蓮
田部浩子