整理している箱の中から、七曜の文様と思える断片裂がひとひら現れました。
探してみるともう片方が見つかり、文様が合いました。江戸後期頃の装束裂と思われます。 それぞれ約8,5㎝×7,1㎝ほどの小さなもので、平地に銀糸を織り込み、綾文にて七曜文を表しております。七曜文部分の色彩は褪色しておりますが、裂の裏を見ると文様は大変鮮やかな美しい黄色だったことが確認できます。ブラックライトにて反応を見ると黄色染料に蛍光が出ます。染料にキハダが使用されているように思われます。
七曜は古代中国の天文学で日(太陽)、月、そして火星、水星、木星、金星、土星の五つの惑星を表し、また、北斗七星を表すともいいます。ひとつの丸文様は星であり、この文様は天体を表現しています。
掌にのるこの小さなひとひらの中に、天空の遙か彼方にある銀河に正しく位置する天体が表現されているかと思うと、古代中国を起点に現代に至るまでの広々とした時間の流れ、大自然、信仰、そこに宿る魂といったものにまで気持ちが運ばれてゆくようです。古の人びとが天空を見上げ、星々の加護を祈念したその魂のかたちが文様化したことに、文様というものが持つ「力」と、「もの」に込められた祈りの存在にもあらためて気付かされる思いがいたします。人の願いは百年、また百年と、人びとの精神によって受け継がれ、時間に運ばれてゆくのだろうと思います。
断片裂の愉しみは、どのように小さくても、もとの姿の完成品の一部であることです。私は小さな形状からもとの姿を想定し、その姿で断片裂を捉えています。断片裂は小さく在っても、拡がる世界をどこまでも内包しています。
天体といえば、そろそろ七夕の季節です。
七夕の夜にでもこの小さな七曜文を机に置いて、少しばかり銀河に想いを馳せてみようと思います。
2020. 6.20
古裂古美術 蓮
田部浩子