緑地紬裂 江戸時代 19世紀

 

 

コロナ禍の影響により「縞・格子・絣 展」以来、二年ぶりに開催いたしました
展示会「裂のほとりⅦ」が、十月二日(土)に無事に終了いたしました。
今展は前期と後期に分け、「単色の美」と「文様の美」の異なるふたつのテーマにて開催いたしました。ひとつの会期中で完全入れ替えによる展示替えという経験は、裂を取り扱う上でもエネルギーの要ることでしたが、新鮮な行動と企画だったように思われます。企画を思案していた当初から、会場の同じ空間と空気が前期と後期でどう変わるのか、自分でも大変興味のあることでした。
小さな展示会とはいえ、決まった時間内に展示内容の総入れ替えをし、裂にアイロンをかけ、お客様をお迎え出来る状態に裂と空間を整えることは到底一人でおこなえることではなく、今展の会期中大変お力添えをいただき、開催をお手伝い下さいました方々には心から感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。

 

今回、感染症防止対策の観点より、会場内にご入場されるお客様の人数を制限させていただきましたことから、ご入場時間を指定させていただいた整理券の配布など、制限を設けさせていただき大変恐縮でございました。御来場下さいました皆様にはご不便をおかけいたしました。ご理解とご協力を頂き心より感謝申し上げます。
また、後期「文様の美」初日には台風の影響を受け、銀座も相当強い雨に見舞われました。あの大雨の中、整理券配布の開始時間に、更にもっと早いお時間からお運び下さいましたたくさんのお客様に胸が熱くなるとともに、荒れ模様の天候の中、ご入場をお待ちいただきましたこと本当に申し訳なく思いました。この度は制限を設けさせていただいた中にも、裂をお選び下さり、展示会を愉しんでいただけましたこと、ほっと胸をなでおろしております。ご不便をおかけいたしました今展ですが、どうか次回東京でおこなう展示会の際には、コロナ禍も薄れ去り、雨風のない、お時間の許す限り会場でごゆっくりと裂を御覧いただける形であってほしいと願っております。皆様ありがとうございました。

 

 

-「単色の美」のこと-

 

古い裂の美しさと魅力を少しでも次の時代に繋げたいとの願いが、古裂古美術蓮の展示会「裂のほとり」を続ける意味合いでもありますが、今展の前期「単色の美」の開催に関しましては、とくべつな想いがございました。思えば十五年近く経ちますが、長い間、江戸時代の天然染料で染色された裂を中心として、単色の古裂のみで展開した展示会をいつかおこないたいと心に温めてまいりました。「色」自体は美術品ではありませんが、私は「色」というもの、その存在を、とても大切なものとして捉えています。個人的に「色」の美しさが日本の美に通底しているように思えております。日本には四季があり、季節の移ろいに自然界がみせる色彩が、日本の美を形作っているような、そんな気がするのです。

 

「色」は物体ではありませんのでそれ自体には形もなく、時間や光によって色彩が変化する不思議な存在です。多くの研究者の方が色彩について様々な角度から研究を深めていらっしゃいます。私は「色」が持つ美しさに惹かれ続けていますが、古い裂を通して「色」の表情やその美しさを伝えるということも、全く意味の無いことではないだろうなと思えています。このたび「単色の美」が、今年の秋に形にできましたことは、自分にとりましてとても意味深いことです。以前に「単色の美」を開催する用意がございましたが、時がその時でなかったのか、それは実現できませんでした。

 

人との出逢いも、ものごとの運びも、場所も、タイミングも、すべては縁によるものかと思われます。この頃では時が熟す、その時間についても、考えさせられることがよくあります。長い歳月心に温めておりました、ひとつの大切な展示会、「単色の美」を開催することができ、心静かに嬉しく想っております。会場に御来場下さり、そのひとときを御覧下さいました皆様、インスタグラムにて会場の動画を御覧下さいました大変に大勢の皆様、そして海外からこの「単色の美」の開催を祝福するご連絡を頂き、遠方から見守っていて下さいました方々、皆様に心より深く感謝申し上げます。これからも日本に遺されてきた「色」を探して、古裂の世界を愉しみたいと思います。
展示会無事終了のご報告がとりとめのない散文となり、失礼いたしました。

 

2021.10.10

古裂古美術 蓮
田部浩子