紬地の和更紗 江戸末頃


三月になりました。
 
もうすぐひな祭りなのでうっかりしないようにと、出張先の京都で桃の花を買いました。あたりが暗くなる少し前の、夕刻でした。
店と自宅に飾る分の菜の花と桃の花を包んでもらい、ほかにも求めたかった枝ものや花を眺めつつ、これ以上荷物が多くなることをおそれてお勘定を置きました。菜の花は緑のかたい蕾ですが、黄色く咲き始めるとぐんぐん丈が伸びてきますのでこのくらいでよいこと、桃の花は、ふっくりとほどよくふくらんで、濃いその色を順々に枝に灯しています。桃色が、ひな人形が飾られた温かな部屋を連想させてくれます。
 
江戸時代は、桃の節句が近づく二月の半ば頃から三月の初めまで、町なかを振り売りのひな売りが歩いたそうです。雛市も立ちました。振り売りは、季節ごとにみられる様々な商いが楽しく、節分の時分には柊売り、端午の節句前には柏餅の柏の葉売り、振り売りに関した本を読むと、江戸の暮らしの季節の確かさに惹かれてしまいます。そんな江戸時代の染織品が、姿を消さずにこうして今に伝わり遺ってくれていること、糸や染め色の美しさを、次に伝えてゆければと願います。
今月もどうぞよろしくお願いいたします。