綾地唐花幾何学文錦断片裂

 
 
十一月になりました。
 

蓮の25周年の記念展が無事終了し、早やひと月が経とうとしています。
三日間開催の会場で、色とりどりの古裂たちの中、皆様と過ごさせていただいた数々の愉しいひとときを思い返しながら、新幹線の窓から流れゆく景色を眺めました。早朝の富士山は、その頂にもう白く雪をまとっていました。
 
出張にからめて、奈良の正倉院展を観てまいりました。今展では、屏風を納めるための麻布製の袋や、山水景観が描かれた麻布など、麻製品の宝物の出陳が注目されました。私は「雑色縷」(ざっしょくのる・暈繝柄の紐)という、暈繝の配色で綯われた紐がひとまとめにされた宝物と、「櫃覆町形帯」(ひつおおいのまちがたのおび・櫃覆いの押さえ帯)という、日本茜で染められているという絁の、素晴らしく美しい赤色に大変感動いたしました。女性用の裳である「錦紫綾紅臈纈絁間縫裳」(にしきむらさきあやべにろうけちあしぎぬのまぬいのも)も、よくぞここまで姿が在ってくれたという見事さで、いつまでも観ていたい日本の宝物でした。帰り道の鹿を通り過ぎ、奈良駅までの下り坂をゆっくりと歩きながら、もっと裂のことが知りたいと心に思いました。
 
今年も残すところ、あと二ヵ月です。
また展示会がおこなえますよう、裂を探してまいりたいと思います。
今月も、どうぞよろしくお願いいたします。