一条の糸を斜めに交差させて組織を構成し、一定の面を移動展開してゆく組紐。
そこには日本的な工芸美が凝縮しており、線に表現される多様で優美な意匠と配色美、紐に託された精神性へも心惹かれる。
組まれた糸の動きに目を凝らすと、人の手により近い工芸品からは、つくり手である人間の存在や気配、無心に糸を組みあげる集中力など、組紐の後ろに灯る時のかたちが、ほのかに伝わってくるような気がする。

 

用の機能を果たす道具として生まれた様々な工芸品の中、「紐」も明らかに美しい、特有の世界を古来より創りあげ、伝承してきた。
中世には組紐工芸の最高峰といわれるものが各存在しているが、甲冑の威糸や経巻の巻子紐等に見られるように、雅やかで格調高い美をその主体に添わせる組紐は、日本人の心に根ざした、美しいものへと赴く意識がとても高められ、発揮された美術工芸品といえる。

 

紐類の分野は、いまだ研究分析や技法等の行き届いた解明がなかなか進まずにあると聞く。
新鮮な関心が成長することを願いつつ、他の美術工芸品と同じ評価を持ち、これからも古い時代の組紐を探してその深い魅力を伝えてゆければと願っている。

 

結ぶ、括る、という用途を担い、摩耗してちぎれ去りもする宿命からか、古い時代の紐類に出合う事は、ひじょうに少ない。
組まれた組織が経年で破壊し、一見糸屑の塊のように見えてしまう場合でも、糸から鮮やかに湧き上がる染め色や、深く内に向かう染め色は、いきいきと生気を放っている。まるで色には深度というものがあるかのようで、心を打つ。
染織品の分野は、広くは残欠の世界といえるかもしれない。

古裂古美術 蓮
田部浩子