蓮の道草 #57

今年前半を想う

八月のケヤキ

 

八月が瞬く間に過ぎてゆき、暦は早くも九月になろうとしております。
今年は思いもよらないコロナ禍の影響により、日常生活が大きく変化してしまいました。緊急事態宣言の発令後、自粛期間に入るなどして、世の中に緊張感が走りました。不要不急の外出を控えてステイホームとなりましたが、店に行く必要のある際に出かけた銀座の街の人気の無さは、何か得体の知れないこわさを感じる異様な光景でした。五月の風が爽やかな頃のことです。

 

自粛の間は普段と変わらず裂の作業をし、仕入れていた裂の手入れと仕事まわりの諸々の事柄で、自宅に籠りながらぱたぱたと過ごして日を送りました。
自粛になるタイミングでこの頃ようやく足の腫れが引いてきてくれたので、ステイホーム中に通院せずにすんだことは助かりました。年が明けて、新型コロナウィルスの感染が深刻になりだした二月でしたが、着用していた立体マスクで視界が狭まり、路の段差を踏み外して道路に転倒、お恥ずかしながら右足首をひどく捻挫したのです。瞬間、骨折したような音がして、みるみる足首が腫れ上がってきたので、すぐにタクシーで病院へ。幸い骨折はまぬがれましたが、腫れてぽんぽんになった右足首と甲の痛みで、これでは仕入れに出かけられなくなるのではと、がっくり気落ちした二月でした。

 

その日松葉杖を借りることになり、しょんぼりと、お借りするサイズを見てもらっていたのですが、松葉杖を使っていては荷物が持てなくなると思いそれはやめて、暫く足をひきずりつつ過ごした春先でした。
笑い話のようですが、思えばいつも裂の作業にて店へ自宅へと裂を手荷物するので、お洒落に小さなひとつバッグで出歩くことが、なかなかありません。小さなバッグ、素敵なものをたくさん見かけるのですけど。

 

しかしながら、足をひきずりつつ出かけた二月の仕入れで素敵な裂が入手でき、復路の東京駅では、何気に目が微笑みながら駅構内を闊歩(牛歩)していたこと自分でもわかりました。気分というものは心身に大きく影響するようで、入手できた素敵な裂のことで、にっこり乾杯したくなるような心あたたかな気分。足首の痛みもちょっとは薄れていくような錯覚。自宅に戻り、ささやかに祝杯。腫れてから数日経過の右足首には、厄払いですからと言い渡して。

 

二年前の年明けに東京で大雪が降った日がありましたが、その時に転倒して別なところを骨折しているので、この捻挫の出来事は、それでもかなりこたえました。怪我が続いているので、いろいろと気を付けないといけません。もう少し先になったら山歩きでもしたいと思っておりましたが、自信がなくなってまいりました。捻挫はくせになると聞くので、展示会の時などに当たらないよう、日頃から注意しないとと思います。

 

コロナ禍の影響で日常の流れの向きが変わり、時間や季節が何か曖昧な形で過ぎてゆくような気がする時もありますが、自然は時を知っていて、空の色や虫の音で、こちらに秋の気配を伝えてくれます。夏の間の楽しみな図書館での一日も、一週間前からの予約なしでは入館できず、当日利用が不可になり、予定が合わず今年はパスに。探したい資料を見つけて複写を待つ間、涼しい館内の喫茶店でゆっくりする。夕方の閉館前に図書館を切り上げて、これからどこへいこうかと、夕風にあたる。八月の自分の楽しみは、今年はパスすることになりましたが、普段の日常に、思った時に思ったことのできる、こういう小事の幸せの連続は、穏やかに自分を支えてくれているのだと思います。

 

先日、長い間ほしいと思っていた江ノ電関連の本を古本で購入することができ、昭和の時代の江ノ電界隈の風景に心遊びます。写真には時代の空気感が映るものですが、こうした写真を眺めていると、情報がもっと少ない中に自分は身を置きたくなるような、ふと、そんなことを考えさせられたりもいたします。深く繁る森の小径を歩いて、落ちている様々なものを通り過ぎて、自分はこれだけでいいなと思えるものだけをそっと拾い上げ、それを自分でよくわかって、そうして過ごしていけたらなどと、この晩夏に想うことです。

 

昨秋は、神楽坂のAYUMI GALLERYさんにて「縞・格子・絣 展」を開催いたしました。賑やかで愉しい古裂のひととき、皆様にお運びいただけまして、とても嬉しい秋でした。世の中が落ち着いて、ぜひまた古裂の展示会ができるとよいです。その際はぜひまた皆様、遊びにお出かけ下さいませ。心よりお待ち申し上げます。
八月は店舗営業をお休みさせていただき、ご不便をおかけいたしました。今年後半(といっても、数えれば今年もあと四ヶ月です)、どうぞまたよろしくお願い申し上げます。

 

状況によっては、昨年のように秋に海を見に行くことができるかどうかわかりませんが、自分の楽しみにしていることで、行けるとしたら幸いです。
いずれにしても、少しでも状況が落ち着いてくれることを願うばかりです。
皆様も、どうぞくれぐれも安全にお過ごし下さい。
愉しい古裂、今年後半も探したいと思います。

 

 

2020.8.26

古裂古美術 蓮
田部浩子