草花百種上 芸艸堂蔵版より

木偏に冬と書くヒイラギは、秋から初冬へ移る頃に、ぎざぎざの葉の陰でキンモクセイの花によく似た小さな真白い花を咲かせる。
辺り一帯になごやかな佳香を届けるその香りは冬の到来を知らせてくれ、鋸歯の葉で容易に人を近づけない体のこの木には、こんな一面もあったのかと、小雪が降りかかったようなヒイラギの可憐な花をはじめて見た時は、うれしいおどろきだった。
なるほどヒイラギはモクセイ科だそうなので、その花がキンモクセイと、姉妹のようにそっくりなことに納得した。
クリスマスに使われる赤い実のなる西洋ヒイラギはモチノキ科になり、葉の形は似ていても、それぞれは別種、別属であるという。

 

私はこの日本のヒイラギがとても好きなので、二月の節分にかかわらず時折りひと枝身近なものに挿しては、艶のある濃緑色のシャープな葉を机の片隅に置いて過ごす。陽木のヒイラギは古来花の咲き方で占いもされたようである。

 

ヒイラギといえば、思い出すのはやっぱり垣根。
童謡ではないけれど、深々と冷え込んでくる日暮れ前まで遊んだ帰り道、長く続くヒイラギの垣根の隙間から、庭先で焚火をしている人の動く姿がちらちら見えたりした。ふと足を止めているうちに、垣根の根元の落葉を拾ってまた遊び始めたり。
今は焚火も昔のこと。

 

ヒイラギを見ていると、少しけむい焚火の匂いと、ぱちんと音をたてて舞い上がる、緋色の火の粉のスピードが記憶の中に浮かんでくる。
確かにあった、昭和の冬の匂いと空気を、このぎざぎざの葉は思い出させる。
そんなヒイラギで、いつか冬のハンカチを染めてみたいと思ったりする。

2015.12.22

古裂古美術 蓮
田部浩子