蓮の道草 #15

ゆく年

縫糸 江戸時代

今年も間もなく年の瀬です。
皆さんは暮れや新年を迎えるこの時期、大切にされている茶碗や盃や、何かを取り出してしつらえることなどはされますか。
私は暮れもおし迫り、大晦日が近づくと、江戸時代の紅絹(もみ)の中から気持ちに適った色合いの裂を一枚選び、その色の上に大切にしているルリスタンの小さな鐘を置いて年の瀬を迎えます。
それは童話の中の小人が叩くような小さなもので、内側の舌は欠落していますから、鳴ることのない鐘ですが。

ルリスタンの青銅と江戸時代の紅絹が合うかしら、と思われるかもしれません。紅絹には様々な色調のものが見受けられるので、色感を気にとめながら何年もかけて気長に蒐めてゆくことになりますけれど、裂とものとの間には、呼び合うような、互いを引き立て合うような、「これ」と思えるひと色とはあるものです。ガラス玉も、時代の盃も、美しく侘びて黄色が現れた風の古い紅絹などで包むことが出来たとき、とても素敵にしっくりと調和します。

枯れた色合いのものが好ましく思えて一枚を選び取ってみると、今年もやっぱり同じ裂です。染め上げられた当初の江戸時代からはずいぶんと褪色が進んだ末でも、じつに複雑な美しい色を見せる色彩の世界。
幾重にも色の層を感じる、そういったひじょうに細やかでこの上なく華やかなものが、染め色の色彩の中にひたひたと敷き詰められています。
取り合わせた色に新たな年の暁の空を想い重ね、ルリスタンの小さな鐘を、自分の除夜の鐘としています。
その音は鳴らなくてもゆく年に想いを馳せれば、除夜の夜空から遠く鐘の音が弧を描いて胸のうちに降りてくる。

蓮の小さなスペースに、色の素晴らしさをお話しにいらして下さった方々、
裂の奥深い愉しさをご一緒させていただきました皆様方、
今年もほんとうにありがとうございました。
くる年も、皆様とお目にかからせていただくことを励みに、楽しみに、
愉しい裂や断片裂を、またこつこつ見つけてまいりたいと思います。
皆様どうぞよいお年をお迎えください。

2015.12.26

古裂古美術 蓮
田部浩子