金沢から京都へ。特急サンダーバード号の車窓から。

 

 

6月末日、この日は東京から金沢を経由して京都に入る行程。
東京駅始発のかがやきで、金沢へ打ち合わせに。昨秋に続き、この11月も金沢にて開催させていただくことになりました「裂のほとり」展示会、その会場となる雪竹庵に最初に到着です。
こちらは昭和初期に建てられた和洋の木造建築で、金沢町家に指定されているとても趣のある建物なのです。ここを工房とされている、竹工芸家の本江和美さんと別件の打ち合わせのため古裂をお持ちする。茶杓のこと、菓子切りの裂、その他、裂についてご提案をさせていただき午後に話し合う予定。

 

東京から手土産したお気に入りの和菓子を冷蔵庫に入れてもらい、ちょっと涼んでから、とお喋りをし始めるうちに時間が経ってしまい、時計を見てあわてて出かける用意をする。この日の午前中に訪問をお約束させていただいた花安藤さんへ、本江さんとお伺いする。外は日射しが強くて日傘が必要。当日の金沢は東京と同様に、朝から大変な猛暑でした。

 

雪竹庵から黒門前緑地の中を通り、お堀沿いをてくてく歩く。途中、お堀の向こう岸に青色の紫陽花が群生しているのが見える。
お店の目印の大きな赤松と楓の木を見上げる。銅板葺きの板塀のある花安藤さんに到着。花安藤さんのお店もとても素敵な町家になり、嬉しくなるほど古風な室内で花を選ばせていただく。おそらく私は今年最後になるだろう蛍袋、中でも白色に近い、ごく淡い色をしたものを希望して、ほかには姿のよい河原撫子と、白くて小さな紫陽花も二輪わけていただく。今回は東京に戻るまでの道中、この花たちにずっと付き添ってもらうことに。花を携えての出張となりました。

 

花安藤さんでは、お庭に面した和の空間で、時間いっぱいまでたのしいひとときを過ごさせていただきました。三人それぞれに、草木のこと、花のこと、音の世界のこと、時間について、美しいということ について、などなど、ひとしきり、お話をするささやかな集いのような、静かで豊かな時間を持ちました。
人とお目にかかって、ひとつのことについて皆でお話しをする。皆で同じものを見て語り合い、それぞれの持つ心の感覚を知って、そこからまた先へと話が紡がれてゆく。そういった何でもなさというのか、ゆるやかな共鳴みたいなもの。素敵な時間だった、としか伝えられないようなことが、かえってしみじみと心に長く遺ってゆくものなのです。またお話しをさせていただく機会がたのしみです。

 

雪竹庵で本江さんと午後の打ち合わせを終え、夕方、金沢から特急サンダーバード号で京都に向かう。翌日は午前9時半から京都で会がありました。

 

写真はサンダーバード号の車窓からの景色です。
一面に拡がる青田の向こうに琵琶湖が見えてきました。このあたりになる頃から、手元でしていたことをやめ、本を読んでいたら本を閉じ、窓の外の景色に目を移します。この時季、青田の緑が本当にきれいです。田んぼの間には、ところどころ作業小屋のような四角い小さな建物が見えます。梅雨の頃、あの小屋からは、たくさんの蛍が見えるだろうか、などと想像する。田んぼの上空は夜空の星々もきれいそうです。
車窓からの長く続いた青田を過ぎると、琵琶湖沿いに建つ家々や別荘らしき建物が見えてきます。空き家なのか、室内に遮るものがないようで、建物の二階のガラス窓を通した先に、青い琵琶湖が見えたりするのです。

 

特急サンダーバード号の、この琵琶湖沿いを走るときの景色をずっと眺めていると、何か不思議な気持ちになってまいります。湖の水が建物や家々のすぐ近くまで満ち満ちているこの場所は、何か特別なものも満ちているような、うまく言葉に表せないのですが。
暫く続く、水の満ちる不思議めいた風景に、裂のことも、日々の早さも、明日の予定もどこかに消えて、流れる景色だけをただ見つめています。心がしだいに浄化してゆくようです。
京都に到着すると、幾分夜風が涼しく感じられました。夜の京都タワーは久しぶりで、写真を撮りました。

 

猛暑の中、金沢から旅をスタートさせた花たち。
宿泊先の京都のホテルでは、花を労い水に寝かせるように水揚げをして休ませる。翌日の会の間は、会場奥にある流しに、会の関係者の方におことわりして、花をたっぷりの水に浸して置かせていただきました。花、またも休息中。その甲斐あってか、元気な状態で無事東京に到着できた花たちでした。

 

その中の白い小さな紫陽花二輪が、なんと現在も咲いてくれています。日中不在にしていると、室内は暑くなるので、花入から紫陽花を取り、水を張った桶に横たえて浸して出かけておりました。帰宅すると、水揚げをし、また花入に移してあげることを毎日繰り返し。もう17日間も咲いてくれているのです。葉は黄色味を帯びてきましたが、こんなに長く咲いてくれている紫陽花は、私ははじめてです。花のいのちに応えてお守りしています。

 

梅雨明けが早かったぶん、夏の終わりも案外早いのではないでしょうか。
金沢も京都も、その猛暑にゆであがりましたが、どちらも実りある時間を過ごすことができました。仕入れは常に厳しくありますが、好きな世界に関われることに感謝して、こつこつと頑張らなければと思います。
次の出張の日が近くなりました。暑さゆえ、少し睡眠を取るようにしないとと思います。皆様もどうぞお大事にお過ごしください。

 

長く綴りました出張の記、お読み下さりありがとうございました。
古裂のご紹介もどうぞまた御覧いただけましたら幸いです。

 

 

 

金沢・黒門近くのお堀。猛暑でした。

 

 

鷺が置物のように動かずにいました。

 

 

金沢から京都へ。幾分夜風が涼しいような。

 

 

7月13日の水揚げ中の紫陽花。
この日で15日目になります。健気です。

 

2022.7.15

古裂古美術 蓮
田部浩子