おわりに

 

「をさな」から「おとな」になり、様々な教えを学んだ平安時代の女性たちの手技と心の在り方は、「おとな」から次の「をさな」へと、「道」をもって伝えられ、それから長い時をかけて、江戸時代に生きる女性たちへと辿りついた。
江戸時代の染織品の、すべて手縫いで仕上げられたちくちくと一心に進む針づかいや、つややかな縫い糸に見つけられる糸止めの玉結びを目にする時、遠い時代の見知らぬ人が、この裂に向かっているその手元や心持ち、縫い物を続けている室内の静けさまでも感じられるように思える時があり、突如隔たりなく近づいたり、あまりにも彼方に思えたりする、そもそも「時間」とは何だろう、と思う。
まだ手に入る江戸時代の染織品、江戸時代のその縫い目から、平安時代の裁縫が垣間見えるだろうか。
針と糸、縫い合わされた色とりどりの古い裂、草木からいづる深い色、人の暮らしと在りし歴史は美しいものに寄り添いながら、時間の粒子に運ばれてずっと遠くまで紡がれてゆく。
古くから遺る形あるもの無いものが、どこまでも紡がれてゆきますように。

2015.07.19

古裂古美術 蓮
田部浩子