蓮の道草 #51

春を待つ

溜池山王で見た小さな枯野

 

いつも通る、郵便局のある道沿いには桜並木が続いていて、その桜を見上げると、枝先の花芽がずいぶんと膨らんでおりました。
長年いてくれる植木鉢の銀杏の木も、枝のごつごつとした膨らみが目立ってきました。春まだ浅い頃、このごつごつから緑の小さな扇形の葉が芽吹いてきます。

 

この銀杏の木は、銀杏の実から私が発芽させた木になります。蓮の店が原宿にあった頃に発芽したものなので、思えばもう20年くらいになるはずです。
植木鉢に根を張っているので大木にはなれませんが、それでも私の背丈を少しばかり越えて、春夏秋冬を過ごしてくれています。
発芽に際しては銀杏を軽く叩き、実が乾くことがないよう、水を充分にふくませた綿の上に実を置いてホイルをかぶせ、長い日数冷蔵庫に入れました。冷蔵庫に入れるのは、銀杏の実に「今は冬」と感じさせるためと読みました。そうしてから植木鉢の土に蒔くと、実が「春になった」と感じて発芽するというのです。

 

3週間くらい経った頃、生命力が強かったのか、3つ挑戦したうちの2つが冷蔵庫の中で発芽しました。かぶせていたホイルをあけては様子をうかがっていたのですが、割れた固い殻からもやしのような芽が現れたときは驚きでした。その後植木鉢の土に移し蒔きました。そのうちにひとつは消えてしまい、ひとつだけが土から顔を出してくれ、それからずっと共にいる銀杏です。
大木になれないので実をつける木なのか否か、雄雌どちらの木なのかがわかりません。私がわからないだけで、自然は内なる循環を育み続けていることでしょう。
君は一体どちらなのと時折り思いつつ、秋になれば黄色く色づく、冷蔵庫の中で春を待ったこの銀杏の木のことを健気に思うのです。

 

まもなく節分がやってきます。
春を待つ。そんな言葉が冬の夜空に浮かびます。

 

2020.1.29

古裂古美術 蓮
田部浩子