
緑地無地木綿裂 江戸末ー明治 19世紀
ひな祭りは今月だったかと思うほど、ひと月の前半と後半とでは季節感がかなり変化しました。すでに初夏を思わせるような気温の上昇に、東京では桜が一気に満開をみせています。春酣の、今年も桜の季節がやってまいりました。
先日、奥まったところにある本を取ろうとして、手前のものを動かしたところ、節分に撒いた豆がひとつ、転がってでてきました。二月の節分は先月のことだったというのに、もうずいぶんと時間が過ぎたように思えます。
真夏の猛暑の折に、夏風に葉擦れの音をさせて緑を濃く繁らせた桜並木を見て、この木に薄桃色に透ける桜の花が満開に咲いていたその姿を重ね合わせてみることがあります。時間は前にしか進まないということを、こうした時にふと感じ入ります。猛暑の夏からやがて秋になり、静かな冬が来て、また薄桃色に透ける桜の花の季節へと時は巡ります。限りある時間を大切に。自分に向けた、そんな言葉がふと心に浮かんできては、淡々と彼方に消えてゆくのです。
気温が高くなってきたので、手触りのさわやかな麻の裂が気になりはじめました。解いたものを手洗いし、裂を整える作業が続いています。目にする木々たちは日ごとにやわらかな緑を枝先に広げてこの季節を迎えています。
ひなの月が過ぎ、まもなく四月です。